アニシナベ族 サンダンス 日記

サンダンス 祈りと決断


会場で目が覚める。
美しい蜘蛛の巣が迎えてくれた。蜘蛛は神聖な物とされている。

これから数日かけてサンダンスの準備が行われる。
サンダンスが始まれば4日間飲まず食わずで感謝を捧げ、祈り、踊る。
この準備期間はダンスへ向けて心身を清める意味もある。

円形のダンスサークルの準備、サークルの周りを囲む柱の整備、ドラムと歌い手の為の屋根作り、4日間絶やす事無く燃やし続ける聖なる火の為の薪作りなど。

以前も載せた写真だが会場のイメージの参考にしてほしい。
ダンスサークルの中心に命の木がある。
これが自分自身とワカンタンカ、グレートスピリットとを繋いでくれる存在だ。

日中の働きを終えてゆっくりとした時間が過ぎる。
夜、数人で火を囲んで話していると、その中で一番年長のアニシナベ族のバウキング・ドッグ(ミディディグウィ・アニモシュ 犬の出す音)がサンダンスとは何かを話して聞かせてくれた。(彼は後に自分の師匠の一人になる。)

とても深い意味があるサンダンス。文章で伝えきれる物ではないが、彼の言葉の一部をここに残しておこうと思う。
「人間もこの世界の循環の中にいる事を決して忘れてはいけない。この中で多くを与えられる。決して感謝を忘れてはならない。サンダンスでは血を流して己を捧げる。他の生き物の命を貰って命を繋いでいる我々はその引き換えとして自分の体以外に捧げられる物は無い。家畜や食べ物を捧げたとしても、それは自分の物ではなく、他の生命から戴いたもの。お金や物など当然いくら出しても感謝を返す事にはならない。それでは自分が捧げている事にはならない。自分自身の体、聖なる血液を流す事で、ささやかだが与えられた物を循環の中に返してバランスを取る。四日間飲まず食わずで体を清める。体に何も取り込まない事で可能な限り自分の体を純粋な状態にする。4日間ひたすらに感謝を強く持って祈り、心も体も自分自身にしてそれを捧げる。」
焚き火の向こうで白髪がかすかに光を反射しながら揺れている。求めていた教えを前に、彼の力強い眼差しに全身全霊を傾ける。
ゆらゆら揺れる光の中で彼は話し続ける。
「サンダンスは自分自身の為に行う事でも、自分の共同体だけの為に行う物でもない。全人類、あらゆる存在の調和の為でもあるのだ。祈りは人に教わる物ではないしどうあるべきか指示されるべき物ではない。ダンサーが息を合わせて共に祈りながらも、真摯に命の木と自分自身で向かい合う。自分自身と大いなる神秘との会話や関係はそれぞれのものだ。形はそれぞれ。しかし、自分の為に祈るのではない。祈りは自分以外のあらゆる物に向けられる。血を流す事で自分以外の物が救われる。その為に祈り、だからこそバランスが保たれる。そして、だからこそダンサーはとても貴重な存在で、我々には少しでも多くのダンサーが必要なのだ。」

感謝、調和。
自分が求めていた物だ。その方法を探す為の旅。

「自分にも踊る事は許可されますか。」
全神経を込めて聞いた。
彼は心を確かめるように自分の目を見つめる。
「本気か。」
「踊らせて下さい。」
「準備はしてあるのか。」
ダンサーはスカートを履く。そして頭と手足にセージの輪をはめる。そして命の木に括り付けるタバコタイを準備しなければならない。
「していないです。」
「わかった。」
そういってバウキングドッグは背後の自分のテントに入り、荷物をあさり、出て来た。その手にはスカートを持っていた。
「これを使え。」
その瞬間、驚きは無かった。
彼が何の迷いも違和感も無くスカートを手渡したように。
自分自身もそれを受け取る時に何の不自然さも感じなかった。
心と体のような、一つになるべきで中々一つにならない物が合わさる瞬間のような整然とした感覚だった。
「ありがとうございます。」

実はサンダンスに来る事になってから、もしも踊る機会が与えられたら自分はどうするのかをずっと考えていた。四日間の断食と断水、そして体に棒を刺して引き千切るピアッシング。それを四度、四年間毎年行う。簡単な事ではない。(もしも踊る機会を与えられたら・・・)不安と恐怖を感じていた。サンダンスの内容について詳しくはこちら

その事が頭にあった日本滞在期間中に十日間の瞑想を行った。ヴィパッサナーと言う物だ。誰とも目を合わせず会話もせずひたすらに痛みに耐えながら瞑想をする(この時の事もいつかここに書こうと思う。)その時に多くを感じ、必要ならば自分の心身はサンダンスを踊り切る事が出来ると知った。

アメリカン・インディアンの文化を学ぶ為でもあった3年間の英語力の準備。
そしてここに来る途中での飛行機の乗り換えでの導かれるような偶然。
サンダンスの存在を知る前に設定していた四年間という残りの旅の期間。
踊れと言われているような気がしていた。

そしてここでの出会いが結論を出した。

「そのスカートは俺がサンダンスで使っていたものだ。」
「タバコタイは作っておけ。冠と手足の輪は明日準備しよう。」

サンダンス前日にはチーフのデニス・バンクスが来て「命の木」をダンスサークルの中心に立てた。
この日は「ツリーデイ」と呼ばれている。
長老が慎重に「命の木」にすべき木を選び、印をつける。
一人がその木に登り、倒れる木を支える為のロープを付ける。
しきたりに従って四人の女性がその木に斧をいれ、その後に男性が斧を入れて行く。
倒れる木を決して地面に付けないように皆で支えてダンスサークルに持って行き、ダンサーはそこにタバコタイを付けて木を地面に掘られた穴に入れて立てる。隙間は石と土で埋められる。
デニス・バンクスはこの日からサンダンスの四日間多くの教えを語ってくれた。
「サンダンスを踊らせて頂く事になりました。」
「君がサンダンスを踊る事を嬉しく思うよ。」

その日の夜、バウキングドックにパイプを渡された。
「これを使え。」
赤い色のパイプストーンで作られたパイプ。
インディアンの世界で神聖な物だ。世界と自分を繋ぐもの。感謝を表現する物。この上ない光栄。
日本では「平和のパイプ」、「聖なるパイプ」と呼ばれる事があるが、そうは言わないらしい。神聖である事、平和を祈る事は当たり前の本質なので尊敬を込めてただパイプと呼ぶ。
夜も更けて眠りへの準備をする。
もうその時は、ただ祈りへの決意だけが胸の内にあった。
ただあるものをあるように感じながら眠りにつく。
一晩寝たらいよいよ日の出と共にサンダンスが始まるのだ。

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