アニシナベ族 サンダンス 日記

サンダンス一日目 祈りの始まり

日の出前に目が覚める。
サンダンスの四日間はダンスサークルの傍を離れる事は無い。
サークルの周りにそれぞれがテントを張り、そこで寝起きする。

外に出てスカートを履き頭と手足にセージの輪を付ける。

薄暗い地平線には木々の陰。
地上には霞が漂う。
裸足で踏む芝はしっとりと濡れている。
スカート一枚では肌寒いけれど、それもまた心地いい。

ダンサーを起こす為に叫ぶ少年の声が静かな森に響き渡る。
すでに聖なる炎は力強く燃えている。その火の周りにダンサーが集合する。
聖なる炎の傍、東側には二つのスウェットロッジがある。
その向こうには2m程の木の柱に囲まれたダンスサークル、中心に立つ命の木が見える。

デニス・バンクスに続いて他のダンサーと共にスウェットロッジに入って行く。暗闇の中で赤く焼けた石に水をかけ、熱い水蒸気がロッジに充満する。この中では人の心、魂が表層に出てくる。歌を歌い、言葉を交わす。四つ足になって這い出すと新たに産まれてきた様な気分になる。

あらゆる物。それを象徴する7つの方向に感謝の祈りを捧げながらダンサーがそれぞれパイプにタバコを摘める。
心臓に近い左手にタバコが詰められたパイプをもってダンサーが並び、力強いドラムと歌が始まる。今まさに日が昇るその方向東に向かって歩いて行く。

サークルに入る前に太陽の正面に止まり、皆で祈りを捧げる。

サークルの中では列になったまま時計回りに踊る。
太陽が空にある間、四度に分けてこのダンスを行う。
これを飲まず食わずで四日間行う。

一日目、バウキングドッグがピアッシングを行った。
背中に木の棒を刺して通し、そこに短いロープを付けてバッファローの頭蓋骨を吊り下げる。
血が流れる、切れてしまわないよう慎重にバッファローの頭蓋骨の重みを背中の木の棒に移して行く。物凄い痛みである事に疑いの余地はない。
彼はこの後この頭蓋骨を背負って踊る事になる。

休憩時間にも彼は一人サークルの中に残り、命の木の周りを回り、時に立ち止まって祈りを捧げている。
このときの光景が目に焼き付いている。
彼は北側に立ち、命の木を見上げて穏やかな風に吹かれながら祈っている。
スカートを履き、裸の上半身にはバッファロースカル。手にはイーグルフェザー。冠には立派なイーグルの羽が二本、空を真っすぐ向いている。表情は穏やかで白い髪の毛が風に揺れている。
60歳になる彼はこれから四日間飲まず食わずでバッファローの頭蓋骨を背中に刺した木の棒で支えながら踊り続ける覚悟だ。しかし今はそんな当然の事は頭の中には無く、ただ静かに祈りを捧げている。
そんな表情であるように見えた。

その姿を見て若者に教えを授けるべき年長者がいかに振る舞うべきかを考えずにはいられない。
彼がどんな思いで、何の為に、これほどの物を背負っているのかを想像すると内側からこみ上げる物を止める事は出来なかった

サークルの中に二人のダンサーが入り、バウキングドックと話をして出て来た。
感謝を伝えたい。今行くべきだと感じた。

ダンスサークルに入り。彼の横を歩く。
すぐ隣に来た時、彼は初めて訪問者に気が付いた。
しばらく無言で歩いた後、声をかける。
「気分はどうですか。」
「いいよ。」
「美しいです。感謝します。」

彼は心を見ようとするように少しの間自分の目を見つめる。そして口を開いた。
「木の棒を通す時、目を閉じて内なる太陽を見るんだ。宇宙は内側と外側にある。」
その言葉を心によく流す。

「かつて血を流す事を恐れました。」
彼はさっきよりも少し長めに自分の目を見つめる。
この時既にサークルを一周して、出入りをする西側に来ていた。
「もう一周共に歩こう。」

少し歩いて話し始めた。
「恐れによって無駄に血を流しては行けない。愛と共に血を流すんだ。それと会話をするのだ。血は命に必要なあらゆる物を運ぶ。血液なしでは生きられない。血は神聖な物だ。」

「ハンターは狩りをする時、鹿を選び、鹿に選ばれる。狩りの前に正しく祈りを捧げれば、狩るべき鹿が必ず目の前に現れる。射止められ、血を失って死んだ鹿は青くなって行く。その流血によって、与えられる命によってハンターは命を繋ぐ事が出来る。その犠牲は神聖な物だ。流される血は神聖な物だ。あらゆる物が繋がっている。その犠牲とサイクルへの感謝を我々は決して忘れてはならない。」

「目を閉じて、木の棒を通す時、目の前のドアを開ける事になる。そして次のステップへ進む事になる。」
この時再び西側に来ていた。

「Thank you for walking a mile with me. (この距離を共に歩いてくれて有難う。)」

この日、彼の他に少数のダンサーがピアッシングをした。
バッファロースカルを吊り下げる訳ではないが、この後木の棒を刺した状態で踊る事になる。

サークルの中ではひたすらに命の木を見つめて対話し、祈り、踊った。
心の底から様々な物に対する感謝が波のように込み上げる。
「有難う。有難う。有難う。有難う。」

この日、四日間に渡るサンダンスが始まった。

(サンダンスの儀式では誰も写真は撮るべきではない。写真は別の日の物。)
(情景の全てを文章に表す事は出来ない。出来事の一部として見てほしい。)
(感謝を込めて、少しでも調和へ向かう助けになる事を祈ってここに言葉を残す。)

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