ばさっばさっ!
カァー!カァー!
カラスが付いて来ては、鳴き声をあげる。
「邪魔する気は無いんだ。ただの流れもんだよ。おどかして悪いね。」
小鳥が右手の草むらから飛び出して逃げてゆく。
「とって食いやしないよ。これからのことも考えると逃げたほうがいいとは思うけど」
鹿がつぶらな瞳でこちらを見ている。
「よう!元気か!」
野宿をしながら歩いていると、
時々、
人間よりも動物たちに共感する瞬間がある。
うさぎが森の奥の方へ駆け上がって行く。
「こんな寒いのに、お前らはすごいなぁ。どこで寝てるんだ?」
蟻が大きな蜂の死骸を運んでいる。
「お前ら、凄すぎるよ。本当に尊敬する。その力と実行力。弟子にしてほしいくらいだ」
こんな毎日を送っていると、
動物たちは、ある意味、人間よりも身近な存在。
しかし、
その世界では、
自分が一番弱い。
美しい白鳥が沼に浮いている。
「どうして、いつも外にいて、風呂もなく、道具もなく、手すらなく、そんなに美しくいられるんだ。」
「お前らに比べたら、人間はなんて不器用なんだろう」
「散々道具や環境を整えないと、今の人々が思う”人間らしい姿”すらも保てない」
大きな木が立っているのが見える。
「あなたたちにはとても敵わない。」
「奪わず、殺さず、食べずに、与え続けて、動くことすらせずに、数百年も生きている」
「あなたたちに比べれば、我々は本当に子供だ」
岩はどれほどの年月をここで過ごしているのだろう。
「もしかして、恐竜とか、むしろ三葉虫とか見てました?」
水は、川になり、海になり、雨になり、血になり、軽やかに巡ってゆく。
「そうやって、柔らかく、なんでもない顔して全ての命を支えてる。」
バランスと調和。
自然はすごい社会を形成してる。
ここでは、
自分が一番弱い。
自分が一番愚かしい。
それが無性に心地いい。
最弱だからこそ、ここには学びが溢れている。
人の学問は、
自然の真理を解き明かすために生まれたもの。
発明や技術は、
常に自然の模倣と利用。
自然以上の師があるわけがない。
歴史上の、どんなに偉大な賢者や、覚者でも、
必ず自然の弟子や孫弟子、曽孫弟子。
全ての師たちの、
その師である自然は、
いつでも、誰でも、受け入れて、対話し、教えてくれる。
我々は、超一流の、最も偉大な師からいつでも教えをいただける。
孫弟子になりすぎると、
もう教えは形骸化して、
本質から離れていってしまう。
そして、
不毛な解釈の論争が起こる。
何が、正しい、正しくない。
真理はそんなことは言っていない。
どうせなら直接、
全ての師の師から、教わったほうがいい。
その門は、
誰にでも無償で開かれている。
なんとありがたいことだろう。
感謝とともに、
また、
自然に侵入してゆく。
歩けることは、幸せだ。