宗谷岬の神社で手を合わせて歩き始める。
青い海の上に白い靄がかかる。
その向こう、たった40kmちょっとの所に樺太がある。
日本国内で、国境を意識できる場所はとても少ない。
しかし、やはりここでも、国境を気にしているのは人間だけ。
海も、
空も、
鳥も、
魚も、
何も国境なんか気にしていない。
そのことが、
人の営みの儚さを痛感させる。
電話が鳴る。
大雲さんだ。
彼は今、日本最北端のお寺で住職をしている。
東京で会って以来。
せっかくだからと送ったメッセージを見てくれたのだ。
「今から海のご供養をするから、来れないかな?」
ひょんなことから、
ご供養を手伝うことになった。
海辺に作った祭壇の前で、シンバルのような妙鉢を預かり、
大雲さんの読経と太鼓に合わせて打ち鳴らす。
8月1日は祖父の命日でもある。
これまでの自分は、海を中心に生活した期間も長い。
この瞬間に不思議なご縁を感じながら、妙鉢を打ち鳴らす。
儀式を終えると、大雲さんが辺りを案内してくれるという。
サロベツ原野、大草原が目の前に広がる。
どこまでも続く地平線が見られる場所は、
日本にどれくらいあるだろうか。
「大雲さんは、人生で目指すことはなんですか?」
「今を生きることかな。悟ってしまっても、人間らしい感情を感じられなければつまらないから」
心から共感する。
この世界は、知れば知るほど正解はないことを思い知らされる。
不完全さを失えば、全てが味気ない。
幼い頃は、
早く目的地に着きたかった。
移動が苦痛で仕方がなかった。
しかし今、
この遥かな道のりを前にこの一歩一歩にこそ、命を感じる。
目的地に辿り着くことは素晴らしい。
しかし、それも新たな道のりのスタート。
常に、今に世界がある。
過去に学ぶことも、
未来に想いを馳せることも大切。
無視することなく、しかしそれらに呑み込まれもせずに、
いかに「今」に引きずり込むか。
頭で考えるのではなく、
存在に染み込ませる。
世界を取り込みながら、
自分自身を溶かしながら、
一歩一歩、踏みしめる。
素晴らしいタイミングで再会できてよかった。
日本最北端のお寺でお世話になり、
また歩き始める。
本当に、ありがとうございました。