アンマン 平和について ヨルダン

危険な平和主義

空への道

『危険な平和主義』

バスに乗っていると、在るヨルダン人が乗って来て話しかる。
彼「日本人かい?中国人?カンボジア?」
自分「日本人だよ。」
彼「東京?北海道?」
自分「北海道だよ!よく知ってるね!」
彼「すごく寒いけど、自然の美しい素晴らしい所だよな!」
自分「本当によく知ってるね!行った事があるの?」
彼「俺は海外には出た事が無いけど、本を読んだして、歴史や世界中の土地を頭の中で旅してる。日本だけじゃなくて、世界中の色々な事に興味があるんだ。そうして色々な事を知れば、人々との出逢いもより興味深い物になる。」

頭には緑色の布を巻いて、伸ばしたヒゲには白い色が混じる。
真っすぐで綺麗な目をしている。

自分「素晴らしいよ。しかもすごい記憶力だね。」
彼「ああ、昔、数世紀前までは、この土地の人々は本当に良く本を読んで多くを知っていた。色々な素晴らしい物を創り出して、教養のある人々が楽しく暮らしていた。だけど、今はもう誰も本を読まない。俺も近所では変人扱いだよ。」
自分「この数世紀でなぜ変わってしまったの?」
彼「たくさんの出来事があった。争いも絶えず、西洋人が入って来て色々な事をした。今はアメリカがこの地域の人々を殺して押さえつけてコントロールしようとしている。そうしてこの土地の人はまともな教育も受けられず、本を読む事も無くなってしまった。」
自分「どこの土地でも同じだね。」
彼「ああ、日本も天皇の事や、神道、武士道、広島、長崎、パールハーバー。多くの事があったね。」
自分「本当によく知ってる。そうだよ。人はどうしても偏ってしまう物だけど。今は歴史認識がバランスを崩してしまっているように思う。どの国の人も、各国の歴史を同時に学ぶべきだと思う。今の日本は、自国から見た日本を少し知らな過ぎるように思うよ。」

彼がじっと目を見てくる。
彼「お前は俺と同じだ。」
自分「そうだね。今我々は戦わない道を造る強さを持つべきだと思う。」

イスラームの人々がジハードという考えを持っていて、今それに敏感になっている事は知っている。
けれど、どうしても話してみたかった。

彼「だけど、やられたら守るしか無い。戦うしか無い時も在る。」

彼らの考え方は『過激』だろうか。
歴史と現状を見れば普通の事だ。
何人だろうと、その立場になれば同じように感じる人が大多数になる。
家族を殺され、奪われ、虐げられ、文化を破壊されれば、抵抗もしたくなる。

彼「我々は本当に多くを殺され、破壊された。戦わなければならない事も在る。」

自分「そうだね。もちろん森で虎が襲って来たら、全力で抵抗する。だけど、我々が今必要な強さは虎に襲われると言う状況を作らない強さだ。虎の習性を知って、夜は火を焚いて近寄らせない強さ。その上で尊重し合って共存する強さ。
だから知力と勇気と努力で戦わなければならない状況を作らない強さが求められてる。途方も無く難しい事だけれど、それが本当の強さだと思う。」

彼「今の状況では難しいけど、確かにそうだ。日本の文化の中には我々と共通する考え方が本当に多いよ。」
自分「俺もそう思うよ。戦わない為に強くありたいね。兄弟喧嘩してる場合じゃないし。」
彼「そうなんだよな!世界も人生も美しい物だから。」
自分「楽しみながら、諦めずにやっていこう。」
彼「お互いの国でそれぞれに出来る事をやっていこう。」

彼の目はまっすぐで純粋だった。
多くの知識を持って、自分と人の幸せを心から願っていた。
そしてこう感じた。
彼らのような人が、何かのきっかけでテロリストと呼ばれるような立場に追い込まれるという事が頻繁に起きているのではないか。
彼らは『過激』で『制裁されるべき存在』なのだろうか。
いや、『ただの人』だ。

平和主義は慎重に実践しなければならない。
無条件無抵抗も素晴らしい。
しかし、虎に囲まれるまで危険を知りもせず、何もせずに、ただ食われるのはただの無駄死にだ。
尊い考えがあってそうするならば素晴らしいけれど、残された子供達はどう感じるだろうか。
そこまで深い考えを持つ前に、愛する人々を無惨に殺されて、その子供達が成長した時に何を目指すだろうか。

そう言った事が、歴史上、無数の素晴らしい哲学を持った民族の中で起こって来た。

平和は盲信して考える事を放棄して与えられる物ではない。
たゆまぬ努力を継続しながら『実践』すべき事だ。
平和は達成されれば安心な『環境』ではない。
針の穴を通すような確率を目指して作り上げて、慎重に運用すべき『実践』だ。

考える事を放棄して人任せで盲信すれば、『危険な平和主義』になってしまう。
自分は良くても、子供達に悲しい想いをさせて、憎しみに生きる道を与えてしまうかもしれない。
願わくば、戦わない強さを、世界中の人々と実践して行きたい。

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