生死について

万が一の時は

伊藤研人

もしもの時のお願い

万が一の時に誰にも伝えられずにじれったい思いをしないですむ様に、今のうちに伝えておかせて下さい。

もしもの時は、どんな宗教、宗派の葬儀もいりません。
自分に必要だと感じるお経は有り難い教えとして体があるうちに読んであるので、再度わざわざ見知らぬ人を仕事として呼んで唱えてもらう必要もありません。
旅には慣れてるし、道に迷った時の対処も心得ているので、あの世をまだ見ていない人の道案内無しでもその時の状況に応じて一人で行くべき所に辿り着けるので心配はしないで下さい。
ただ、何か伝えたい事があれば一人でいる時に呼んで話してください。そこで聞いています。

もしも体が手に入ったら、髪の毛の一部だけどこかにとっておいて、後は灰にして下さい。
炎にさらされて蒸発した水分が大気中に広がって雨になったり、川になったり、海になったり、生き物になったりしながら、この星に海がある間は世界中を巡ります。
灰の一部は海にまいて下さい。
それは世界中の海に広がって魚や鳥や植物になります。
一部は大きな樹の下にまいて下さい。
樹として静かにとどまって大切な人や、その子供達の笑顔をそこから見守りたいです。
一部は自分の産まれた土地の大好きなあの家の傍にまいて下さい。
生きる事を始めた場所にしっかりと挨拶をしておきたいです。

自分がこの人生でお世話になった方々に発った事を伝えて下さい。
その時に、もし良ければ灰の一部を受け取ってほしいと望んでいる事を伝えて下さい。
その人も受け取る事を望む場合にのみ、少しだけお渡しして下さい。
受け取ってもらったら、信用しているので好きに扱ってもらって構いません。
どこかにまいてもらっても、とっておいてもらっても、その他の方法でも。その方の心のままに、正しいと思う方法で扱ってもらって下さい。

もし体が見つからなくても時間の問題で全て同じ事です。それも心配しないで下さい。

もしも、自分と縁のあった方がそれぞれの信じる宗教ややり方に沿った儀式や祈りやお経をあげて下さるならそれはとても嬉しい事です。どれも有り難く心を感じさせて頂きます。ただ、その場合も他人に頼んだり、お金をかけたりする事はしないで下さい。

葬儀は要らないけれど、家族や友人が集まってお酒でも飲みながら思い出話をしてくれたりするのは嬉しいです。楽しかった話をしてくれると幸せです。

もしも悲しんでくれるなら、それは嬉しい事です。
けれど、本当は悲しむ必要はありません。
そんな事を言っても悲しい物は悲しい。それは自分も一緒です。
それでも一応言わせて下さい。
自分ほど恵まれている人間はいません。
出会った人々は誰もが信じられないほど素敵でした。
したい事は全てしてきました。
もちろん楽しい事だけでなく苦しい事も辛い事もありました。しかし、どの選択も自分で人生に必要と納得して最終的に自分で選びました。だから、したくない事をした事はこの人生の中でただの一度もありません。
後悔は微塵もありません。
もちろんこれからしたいと思っていた事はたくさんありますが、それは何年生きても変わりません。ただ自分の決断に責任を持って納得している瞬間の連続を生きる限り、どの瞬間に終わりが来ても満足です。
だから、悲しんで下さるとしても、安心と清々しさを同時に持って下さると嬉しいです。

万が一、若くして去る事になっても、その事も含めて自分の生き方が間違っていたとは絶対に思いません。
それぞれ、別の価値観と生き方があります。
その中で最も重要なのは、自分が自分の人生をどう思うかです。
心から自分の人生が間違っていないと思う人間に対しては、誰も本当の意味でその人生を否定する事はできません。
自分は本当に幸せな人間です。
だから、もしも人や子供に自分の話をするなら、良い例でも悪い例でもなく、ただ事実と共に、一人の幸せな男として伝えて下さい。

そして一番伝えておきたいこと。
心から感謝しています。
必ず「ありがとう」と伝えに行きます。
見えも聞こえもしないだろうけど、その時には聞いていて下さい。

どうか、よろしくお願いします。

こんな事を書いて、去りたい訳でも、去るつもりでもありません。
50年だろうが100年だろうが与えられた寿命を生き抜きます。
死地も死ぬ気で生き抜いて、何があっても諦めずに生き残ります。
なのにこんな事を言いだすのは変だと思われるかも知れません。
不謹慎も心得ていますが、お許しください。
しかし、人間いつかは必ず死にます。
そして言いたい事は生きている間しか言えません。
だから生きている今のうちに言わせていただきます。

生き残りの為に改めて敷く背水の陣。
備えあれば憂い無し。

もし万が一の時には、どうか先に行く無礼をお許しください。
その時には、あなたとの出会いのお陰でここに来た自分を、誇りに思って頂ければ、それが一番の喜びです。

感謝しています。
愛をこめて。
ありがとうございます。

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