アニシナベ族 ミシガン

世界の淡水の中心「ワブース」聖地でのパイプセレモニー

サンダンスが終わった日、サンダンスを通じてずっと色々なことを教えてくれていたバウキングドックの家にお世話になることになった。
「この後どこに行くんだ。」
「決まって無いけど、三ヶ月はアメリカにいる予定です。」
「そうか、俺たちはこの後数日間ミシガン湖の周りの聖地を回るけど一緒に来るか。」
「是非よろしくお願いします。」
「よし、乗れ!」

こうしてバウキングドックの家で約一ヶ月生活を共にすることになった。
彼はアニシナベ族、チプワ族の長老の一人。
彼らは五大湖のスペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖に囲まれた地域に住んでいる。
五大湖にはなんと世界中の淡水の内20%が集中している。スペリオル湖だけでその面積は北海道を超える。「北米の地中海」等とも呼ばれる物凄い規模の湖。人類にとってとても大きな意味を持つ場所でもある。
この地域は「マカナック」と呼ばれている。彼らアニシナベ族の言葉で「亀」という意味だ。

アメリカン・インディアンは北米大陸のことを「亀の島」と呼ぶほど、彼らにとって「亀」は大きな意味を持つ存在だ。アニシナベ族はもちろん、多くの部族の中で亀は最も古い長老の一つとして尊敬され、大切にされている。彼らは「世界の淡水の中心」と考えているスペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖に囲まれたこの場所を「亀」と名付けて大切にしてきた。

バウキングドックの家で目が覚める。「マカナック」での最初の朝だ。
「今日はワブースに行こう。」ワブースとはアニシナベの言葉でウサギという意味で、ミシガン湖とヒューロン湖を見下ろせるこの付近で最も高い山だ。

麓に到着し、急な斜面を登って行く。

この山の「ワブース」、ウサギという名前は、大昔この地域にいた神が身の危険を避ける為にウサギに姿を変えてこの山に登ったことが名前の由来らしい。この物語もいずれ詳しく紹介しようと思う。歴史上、この地域を最も広く見渡せるこの場所をアニシナベ族は見張り台として利用してきた。そして神の宿るこの山は神聖な場所として代々大切にされてきた。
ここに一緒に登ったのはサンダンスを共に踊り「兄弟」になった彼ら、バウキングドックとその親族のロンとチャーリー、そしてイギリス出身のへイッグ。
バウキングドックがアニシナベの言葉で祈りを捧げ、兄弟でパイプを吸う。そしてしっかりと絆を結ぶ。
「古い部族の言葉で祈りを捧げるのは、ここにいる多くの先祖の霊に理解してもらう為だ。この祈りを聞いて彼らもまたここに来る。必要ならば彼らは必ず助けてくれる。共に祈ればそれはとても強い物になる。」
このことを後で思い返した時、日本の葬式の事を考えさせられた。死んで初めてお経という形で教えを与えるが、それは故人が生前に理解出来た言葉ではない。本当に重要な事ならば、生きている内に学びたい。生前理解出来なかった言葉を、死ねば理解出来るのだろうか。

七つの方角、あらゆる存在に感謝を捧げて祈り、タバコを撒く。
その間一羽のカモメがずっと傍を旋回していた。それは滅多に無い事らしい。
この地域ではカモメはメッセンジャーで、メッセージを更に上を飛ぶイーグルに伝える。そして更に高く飛べるイーグルは遥か空の上にいる「大いなる存在」にメッセージを伝える。

祈りを終えて山の反対側の斜面へ。
崖を歩き、降りて行く。

しばらくすると浅い洞窟が現れた。洞窟の下から生える様に、木が斜めに突き出している。
ビジョンクエストを行うのにいい場所らしい。

更に湖畔の方まで降りて行く。

この場所には彼らの先祖が住んでいたらしい。煙突と廃墟がある。その横に雷に裂かれた木が立っていた。雷は生命の象徴。科学の世界でも古代の地球で雷がアミノ酸の生成に寄与し、それが生命の誕生に繋がったという説もある。面白い繋がりだ。

湖も空もどこまでも青い。
こうしてバウキングドックとの生活が始まったのだった。

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