th_img_3767

パチン
横殴りの雨が顔を弾く。
水と風の冷たさが、体の芯に侵入してくる。

左手にはもう九州が見えている。
霞の浮かぶ海面を、
鉄の寡黙な船が海峡に吸い込まれていく。

カモメが真正面からの強風を受けて、
すぐ手の届きそうなところを、
自分の歩くペースに合わせて飛んでいる。
「お前らは強いなぁ」

歩きすぎて、
なかなか勉強ができないからと始まった、
[思考は英語でルール]

追い込まれると頭に響く言葉。
“It doesn’t kill me”(これは自分を殺さない)

その言葉に笑えてくる。
この程度で死ぬわけがない。
余裕だ。

白波の立つ狭い海峡を眺めていると、
水深とは違う深さに吸い込まれそうになる。

日本人にとって、
本州と九州を隔てる、
この海峡の重みは凄まじい。

縄文から弥生にかけて、
大陸からの渡来人と共に、
九州や関西にできた国々。
ここはそれらを結ぶ海運の要衝だった。

源平合戦では、
この壇ノ浦を舞台にした決戦で、
源義経が勝利し、
侍が政治の実権を握る時代が始まった。

そして、
長州藩が壇ノ浦砲台から、
外国船に向けて放った砲弾が、
明治維新のきっかけの一つになった。

どれほど多くの物語が、
ここで生まれてきたのだろう。

どれほど多くの人々が、
この海に沈んで行ったのだろう。

その深さに、
自分の存在が世界に溶けて、
時間が消える。

しかし、
ふと気づけば、
やはり小さな自分がここにいる。

スペインから、アフリカ大陸を望んだ、
ボスポラス海峡に立った日を思い出す。

大和朝廷としての日本から最も遠い蝦夷から、
最古の日本についての詳しい記述、
魏志倭人伝に記された土地まで来た。

近いようで、
遥か彼方、
約、4ヶ月の道のり。

苦しいことも、
楽しいことも、
素晴らしい出会いも、
語りつくせない。

海峡を眺めていると、
さっきまでの豪雨が嘘のように、
雨が上がる。

残すは、
九州、沖縄。

この日本の自然と、
古い神々に、
心を込めてご挨拶をさせていただきます。

日本の美しい伝統と、
これからの道に想いを馳せながら。

心からの感謝をこめて。