ケープタウン 着物 伊藤研人

南アフリカ・ケープタウンで出逢った友達とスラム街に行って来た。
南アフリカは治安が悪いと言われている。
ナミビアでヒッチハイクをした時に乗せてくれた人も、こう言って注意をしてくれた。
「南アフリカでは1ドルの為に何のためらいもなく人を殺す人がいるから気をつけてね。」

そんな国のスラム街に行く事になるとは思っていなかった。
スラムは大抵、その土地で最も治安が悪くなる地域。
しかし、ひょんな事からケープタウンに着いた日に出逢ったジンバブエ人青年、オーブレーと一緒に行く事になった。

オーブレーはケープタウンに住んでいて、スラムの前に行った事は何度もあるけれど、中に入った事はないと言う。
スラムの前に着いて、彼が少しの緊張を含んだ面持ちで尋ねてくる。
「少し入ってみるか?」
オーブレーはプロの写真家で、この中で写真を撮りたいと言う。
一瞬、頭の中を様々な思考が駆け巡る。
そして、気づいたらすぐに答えていた。
「少しだけ、入ってみようか。」

自分のこういう決断には、たまに合理的な説明がつかない事がある。
危険と言われるこの街の地元の人も、危険だからとあえて近寄らない場所。
自分の友達や家族が行こうとしたら止めるだろう。
しかし、こういう時に「大丈夫だろう」と直感するのは、今までの人生の経験による所が大きい。
幾度となく危険な目に遭っても、全てなんとかなって来た。
だから大丈夫だろうと言う安直な判断。
もしも今までに悪い結果になって居ればもうこの世に居なかった。
生かして頂いて、ここにいる。
結果的に全て何とかなったから、今ここに生きていて、「大丈夫だろう」と感じる。
安全性を考えれば、根拠も合理性もない。
確率的にも好ましくない。
それでもこの世界を観たい。
好奇心というよりも、人や世界と調和する為にその深みを知りたいという感覚。
きっと、好きな人、人生を共に歩む人の事はなんでも、もっと知りたいという穏やかな気持ちに似ている。
この愛する世界のありのままを知り、その上でこの世界との関わりの中での、自分の命の使い方を決めていたい。

心配して下さる方にお詫びしつつも。
虎穴に入ったからこそ、得た虎児を無駄にする理由はない。
見た物を皆さんと共有したい。

スラムの中に入ると、オーブレーも笑顔の下に少しの緊張が感じられる。
ここに来る途中で彼は言っていた。
「こういう環境では、恐れを見せない事が重要だってどこかで聞いたよ。」
自分もそれは常に思う。
「そう思うよ。人も世界も自分の鏡だからね。」

少し表情の硬い中年男性が前から歩いてくる。
笑顔で挨拶をする。
すると、はにかんで挨拶を返してくれる。
温かい気持ちになる。

昔、どこかで読んだ文章を思い出す。
こんな事が書かれていた。
「ある地域では、挨拶は様々な背景を持つ人を含む共同体の中で、自分は相手に敵意がないという事を即座に明らかに示し、相手にも自分への敵意がないかを確認する為に強く根付いた。だから日本や各地の先住民の様な、比較的同じ民族の人々が固まって生活したり、治安が良い地域では、比較的簡易な挨拶の文化が形成されて来た。」
確かに日本ではハグもないし、「Hi」や「How are you?」と同じように日常的に使われる言葉は見当たらない。
そのような事をしなくても、敵意がない事が分っているからだ。という内容。

これだけが挨拶の現状の理由の全てではない事は言うまでもないけれど、言っている事は実感としてよく分る。

今この場で、自分の間合いの中に、敵意のある人が居ない状態を保つ為には、確実にすれ違う人に挨拶せずにはいられない。
と同時に、せっかく挨拶をするなら、相手が愛情深い人間だと信じて、心を込めて挨拶をする。
すると、会う人全てが笑顔で挨拶を返してくれる。
会話が始まって、心が通う。
そして、人に対する安心感のない所から、また人の奥底からにじみ出る温かみを感じる。
より強く「人」の根本に対する信頼が構築されて行く。
「安全」が当たり前な環境では忘れてしまう感覚。
心を病んでいる人は世界中に無数にいる。
人に危害を加える人もいるけれど、それはその人にとって自然な状態ではない。
自覚があるか、ないかは分らないが、本人も苦しんでいる状態なのだ。
人が温かいのは自然な事なのだ。

スラムに居る人々は本当に貧しい生活を余儀なくされている。
社会からもほとんど顧みられず、トタンをつぎはぎした小屋に最小限の物で生活している。
それでも子どもたちは元気で、人々は笑顔を返してくれる。

お母さんと小さな子どもが、家の前に座っている。
話しかけてみると、最初は驚いた様子だったけれど、門の中に迎え入れてくれた。
子どもをだっこすると、服がおしっこでびしょぬれだった。
一緒に写真を撮らせてほしいと頼むと、はにかんで少しいい服を着てくると言って家の中に入って行った。
お礼に幸運のお守りと言って、五円玉を渡すとすごく喜んでくれた。

若い体格のいい男たちが話しかけてくる。
「どこから来た?それは何の服だ?よく来たな!」
人は見かけによらない。

女の子たちも話しかけてくる。
「その服すごくいいね!髪の毛も長くて羨ましい!」
こちらの人は髪の毛がもの凄くカールしていて、なかなか長くは伸ばせないようだ。
抱きついて来て、フレンドリーに色々な事を聞いてくる。

警戒は解かなかったけれど、出逢った人のほとんどが笑顔で挨拶を返してくれた。
ハグをして、握手をして、名前を聞いた。

今まで旅をして来て「治安と人情」について、強く感じる事がある。
治安が悪いと言われる土地は、確かに凶悪な事をする人はいるし、観光客を狙って騙したり、スリ強盗を犯す人もいる。
しかし、治安が悪いと言われる土地ほど、一般の住民は人情深い。
フレンドリーで温かい。

日本にいてはなかなか実感としては分らない。
ほとんどの「危険な地域」は、「危険な人々で形成される地域」ではない。
貧困や政治や宗教などの問題から、悲惨な事を起こしてしまう一部の人々がいる地域なのだ。

先日会ったコロンビア人の青年が言っていた「コロンビアが危険だなんて風評被害も甚だしいよ。日本に行ったら自殺する羽目になるから恐くて行けないなんて言うやつが居たら変だろ。危険を煽ってコロンビアへの観光客を減らそうとするメディアの動きもあるんだよ。そして悪い情報ほどよく伝播して心に残る。」
国際的平和活動の為にアフリカに来ているだけあって面白い言い方をすると思ったが、的を得ている。
そして、きっと彼はコロンビア出身と言って、「治安の悪い地域で大変だね。」とか「この人も危険かもしれない。」とか思われる事をすごく嫌がっていたように思う。
「確かに今まで出逢ったコンンビア人はいい奴ばっかりだよ!!」
ケープタウンも市街地では危険はほとんど感じない。

このスラムでは幸い、何も失わずに帰ってくる事が出来た。
貧しい人々の中に在ってただの一度もお金を求められる事もなかった。
そして人々は本当に温かく受け入れてくれた。
逆に、ここに比べて豊かな観光地では、ここの人々よりもいい暮らしをしている人たちに、嘘をつかれ、騙され、たかられた。

日本にいては自分が知り得なかった事を伝えたい。
アフリカは貧しさの中でも、人々は底抜けの笑顔で暮らしている。
危険と言われる地域ほど、一般の人は本当に温かい。

問題ある行動をする人々も、社会の仕組み全体の歪みに落ちてしまっただけで、本人だけのせいではない。
そしてこの現象の一端を、日本も先進国として、成長を追い求める経済活動を行いながら、発展途上国から搾取して来た歴史の中で担っている。

そして、これは叶うなら世界中の人々の心に留めてもらいたい。
「世界中のどの地域のどの人種だろうと、人は自然な状態であれるなら、温かい心を持っている。」
当たり前の事だけど、改めて自分自身で世界中の人々と対話して確かめて、断言出来る。

人々は温かい。
信じ合って、世界中の人々と素直に愛情を渡し合える社会を夢見て。
ありがとうございました。

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I went to a slum area in Cape town South Africa.
It supposed to be a dangerous place.
But as I go there, people were very nice saying Hi.
I strongly believe that nature of all humanity have warm heart.
Only some people who have problem dose something bad to others, and it is hard life for themselves too.
And the reason why they are in that kind of situation is partly because of each one of us.
Everything in this world is connected and related.
So, I want to trust goodness in everybody with as many people as possible from everywhere in the world.
And I dream to see people from everywhere love each other living in harmony.
Thank you.

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