ウルファ

夜7時にトルコ・ウルファという街のバスステーションに到着。
シリア国境近く、アブラハムが産まれたと言われる土地。

郊外のバスステーション
英語を話せる人は一人もいない。
英語で話しかけるとやれやれと言った表情。
「ここはトルコだぞ!英語なんて誰も話さないよ!」
と言うような事を言ってるのはトルコ語を話せなくてもよく分る。

宿や交通手段、街の地理など一切調べていない。
野宿をするには明らかに寒過ぎる。
(まぁ、何とかなるさ。)
と気楽に本気で行くのが常に唯一の選択肢。
どうなっても死にはしないだろう。

とにかく手当たり次第話しかけると、一人の男性がどこかに電話をかけて、繋がった状態で電話を手渡してくれた。
英語だ。
「宿はうちにくればいい!街に出れば分るから。宿の名前と住所は彼が渡すから。」
ありがたい。値段も悪くない。一歩前進。

住所をもらって街へ向かおうとするも、今度は街への行き方が分らない。
路線バスの運転手に聞いても言葉が全く通じない。
どうでもいいから乗ってしまおうとしても、現金は受け付けないという仕草。
そうこうしてるうちに乗客の一人がバスカードで払ってくれた。
現金で返そうとしても要らないという。
なんて親切なんだろう。
若い男性。ほんの少しだけ英語が分るようだ。

街に着くと、想像していたよりも遥かに大きい。
薄暗い路地にレストランや店がどこまでも並んでいる。
勘だけで何かを見つけられる規模じゃない。
さっきバスを払ってくれた男性が話しかけてくる。
「これからどうするんだ?そこに行けるのか?俺でもその場所は分らない。」
「なんとかするよ。とりあえず歩く。」
「まぁ、ついてこいよ。」

しばらく一緒に歩く。
少しの英語で何となく分り合う。
彼が急に道端のバスの運転手に話しかける。
話し終わってこっちを向く。
「これに乗れよ。」
「わかった。本当にありがとう。」
またバスカードで支払ってくれた。
笑顔が素敵な人だった。

バスに乗って、進行方向を食い入るように見ていると、運転手が手招きをする。
お互い会話は全部ボディーランゲージだけど、何を伝えたいのかは分る。
(運転席の横に座れ。そこから進行方向を見るのは首が痛くなるだろう。)
(わかった!ありがとう!)
しばらく走る。
(ここだ。降りて左に曲がって真っすぐ行け。)
(助かったよ。ありがとう。)

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バスを降りて言われた方へ向かう。
薄暗い通り。
その辺の人に住所を見せて身振りで道を尋ねる。
言われた通りに行こうとするけれど、迷路のような裏路地で行き止まりになる。
戻って茹でトウモロコシ屋台のおじさんに聞いてみる。
するとトルコ語でこんなような事を言っている。多分。
「ああ!こいつは知ってるよ。今電話してやる。」
電話を渡される。
英語が聞こえる。
「ああ!さっきの人だね!今そこに迎えに行くよ。10分待ってて。」

待っている間、屋台でその辺のおじさん達と座ってお互いに何を言っているのかは分らないけれど、ジェスチャーで何となく通じ合う会話をして待つ。
みんな容貌は浮浪者のようだが、やはり笑顔が可愛らしい。
「それは日本の服か?」
「靴のつま先がわれてて面白いな!」
「格闘技やるのか?」

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しばらくすると、教養のありそうな男性が近づいてくる。
「お待たせ!」
「助かったよ。ありがとう。」
屋台のみんなにもお礼を言って握手をして席を立つ。

彼について裏路地を歩いて行く。
薄暗く、狭い路地に建設用の足場が設置されている。
ビニールシートで完全に塞がれている所に入り込む。
「ここの一角は今歴史的建造物群の修復の為の工事が続いてるんだ。今はこんなだけど、数年後には観光名所の一つになるよ。」
さらに雑然とした裏路地を進んで行く。
「ここだよ。」

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大きな壁に、鉄製の扉がついている。看板の類いも一切ない。
白い壁と扉。

どう逆立ちしても、自分だけなら街中から更にバスに乗ってここまで来る事はない。
この付近に来ても、仕切りを乗り越えてまでこの暗い裏路地に入ってくる事はない。
仕切りを超えたとしても、住所の表示もない迷路の中でこの位置に来る事は出来ない。
奇跡が起きてここを通ったとしても、暗い裏路地の看板もインターホンもないランダムなただの鉄製の扉を夜にノックするという発想には至らない。
つまり、どんなに言語が出来ようが、仮に地図でこの位置を特定出来ようが、自力だけで辿り着く事など最初から不可能だった。

こんな事は全く気にならないし、何とかなる事は分ってた。最終的には辿り着くと知っていた。
ただ、彼が最初に電話で「街に出れば分るから。」と言った時、何を根拠に言っていたのかということは興味深い。

「どうぞ。」
扉を開けると、暗いトンネルになっている。床は水が張っている。
「昨日、雨が降ったからね!」
それは仕方がない。笑

トンネルを抜けると中庭になっていて、その一角に部屋がある。
「ここは築600年なんだよ。」
この宿は遺跡だった。

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本当に多くの人の助けがあって今ここにいる。
言葉の全く通じないこの土地で、自分は赤子同然だ。
何も解らないし、何も出来ない。
生かすも殺すも完全に周りの人次第。
ただ、オギャーと泣いて差し伸べられる助けの手を借りるしかない。
それがなければ死んでしまう。誰のせいでもない。

時に人は自分の力で生きていると錯覚する事もあるけれど、こんな時には強く実感する。
本当はいつでもどこでも同じ事だ。
ありとあらゆる物と係わり合いながら、いつも助けられて生きている。
食料や酸素、光、水、生活に必要な物や人の愛情。
生きている限り、この関わり合いの輪から外れる事はない。
生きていると言う事は、この瞬間に助けられていると言う事だ。
どの瞬間にも限りなく多くの物を与えられていると言う事だ。

生きている限り、どこまで行ってもお陰様だ。
世界の支配者だろうと、一本の草だろうと、助け合ってこの輪の中に生きている。
全てが表裏一体で、強い物も弱い物もない。

与えられる物に
生かしてくれる物に
常にその瞬間に笑顔で感謝していたい

返し切れないほどの恩を受けてしまったけれど、自分も何かを渡したい。
またあらためて感じさせられた。
本当にありがとう。