ヌエバ

エジプトからヨルダンへ

ヌエバ

エジプトから船でヨルダンへ向かう。
船では行けないだとか言う人もいる。
実際の所は日替わり。
何時に船が出るのか誰も分らない。

そういうのは嫌いじゃない。
どれだけ考えても後先の分らない事。
どうなっても結果を恨まないと決めてただ進むしかない状況。
不確定要素の海の上で、希望という船に揺られているような瞬間。
その空っぽの時間が自由を感じさせてくれる。

噂では、昼過ぎに港町のヌエバからヨルダンのアカバへ向けて船が出るらしい。
バスで港町へ向かう。
シナイ半島の荒涼とした大地が窓辺を流れて行く。

港町に到着。
港の門の前には地べたに座って船を待っている人々が集まっている。
係員に聞くと、ここで待っていればチケットを買えると言う。
待っている間、そこら中のエジプト人に挨拶をして話をする。
「どうしてこんな所に来た?」
「なんで船なんかで国境を越えるんだ?」
「この悲しい光景を見てみろ。」
自分「何が悲しいんだ?」
「皆、無気力で仕事も無い。ここではみんなやる事が無くて、時間が物凄く安い。だけど俺はこの光景を見る度に悲しくなる。35年ここにいるけれど、この光景は少しも変わってない。」
その光景は確かに時間が止まってしまったかのようにそこにあった。

職員が来てチケットを買えるか尋ねると、ここではないと言う。
言われた通りの場所に行くと、ここでもないと言う。
さらに、言われた所に行ってみるとここでもない。
また言われた通りに行ってみると、やっとチケットオフィスにたどり着けた。
船は夜10時に出るから8時に来いという。
現在、昼の1時。
ゆっくりと過ごそう。

船が出なければ、砂漠で一晩明かすのも悪くない。

近くのカフェでお茶を飲みながら時を過ごす。
乾燥した大地に生える木々が風に揺れ、その直後にその風が自分の髪を揺らす。
猫は日陰で寝転がり、人々は笑顔で挨拶を交わしては別れて行く。
日陰が見る見るうちに長くなって行く。

時の流れは、不思議と心地よい早さになっている。

8時にチケットオフィスに行ってチケットを買う。
「船は明日の朝7時だよ。」
やっぱりだ。
何度聞いても今晩は出ないと言う。

その辺で夜を明かす事にする。
静かだ。
夜は肌寒い。
少し風邪気味の体に、申し訳ないけれど悪化しないようにと言い聞かせながら眠りにつく。

日の出と共に動き出す。
薄明かりの中、鳥の声が響く。

7時に港に着いて、船が出発したのは17時。
ヨルダンには19時到着。

その間たくさんのエジプト人と友達になり、食事に混ぜてもらった。
バスターミナルの床に食べ物を広げて素手で食べる。
船が遅れてもみんな慣れた調子。
エジプト人の一人が言っていた。
「エジプトでは全てが遅い。他の国はなんでもスムーズに行く。この国はジステムが悪過ぎる。」
ここで知り合ったアイルランド人が言っていた。
「彼らは頭が良くない。船がこんなに遅れる意味が分からない。」
確かに非合理性の塊のようなシステムだった。
ただ、彼らの殆どは文句も言わず、話しかければ誰でも表情は明るかった。
楽しそうな事は素晴らしい。
もしも、改善していかない一因が楽天的であるせいだとしたら、人としてどうあるべきなのだろうか。
よく中庸を見て行きたい。

様々な理不尽なシステムを乗り越えてようやくヨルダン入り。
現在、ペトラ遺跡。
いい一日を。

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