アテネの中心街。
約3400年の歴史を持つ最も古い都市の一つ。
最古の民主主義を起こしたその土地。ローマ、オスマン、と歴史に翻弄され、ギリシャの独立が認められた1830年当時のアテネ市の人口は約4000人。それが今や約656000人。
パルテノン神殿で有名なアクロポリスの周りには、古めかしい建物が密集し、ある距離から急に近代的な建築がひしめき合う。人々はその長い歴史からはどこか切り離されたような雰囲気がある。その目は弱くはない。人々は明るく、面白い。けれど、自分が勝手に想像していたような誇りは感じられない。
眩しく照らす太陽の輝きと、建設途中で放棄されたビルの灰色の断面の寂しさが対照的だ。
露天の並ぶ路地を歩く。
後ろから声をかけられる。
若い女性の声だ。
「すみません。日本から来たんですか?」
「そうですよ。」
「すごい!私日本が大好きなんです。日本語も勉強してて。もし明日時間があったら話をしませんか?」
元々、特に何も決めない旅だけれど、どちらにしても現地の人と話す事はいつも最優先。
「もちろん。また明日。」
翌日、色々な話をした。
ソクラテスやプラトン、ギリシャの事を聞かせてもらい、日本語、日本の文化、精神、神道などについて自分の知る範囲で話した。色々な話を聞こうと思っていたけれど、彼女は日本に対する興味が物凄く、結局教えている時間が殆どだった。それも悪くない。
「本当にありがとう!もう仕事に行かなくちゃ。明日も話せないかしら。」
「もちろん。」
翌日、また会って話をする。
仕事の事で悩みがあるようで、色々な相談や質問を受けた。
女優をやっているらしく、心の事、精神的な事、人間関係、家族の事、様々な悩みを抱えていた。
質問も恐ろしく本質を突いた物ばかり。成長、全体性、自分の世界と他人の世界、完全性、生きる目的、来世、地球外文明。
自分の知っている事、内面から見つけた事、自分が実行している事などを伝えるとしばらく考えて、表情が明るくなる。
「ありがとう。本当に助かった。誰も解ってくれる人がいなかったの。本当に会えて良かった。」
助かったのはこっちだった。
最近、多くの物を見て、少しだけ考えすぎて、自分の無力さを目の前に足下がグラついていた。
ほっとして涙を流している彼女を見て、こっちが泣きそうだった。
単純に、ささやかにでも誰かの力になれる嬉しさを痛いほど痛感した。
おかげで、またここに戻って来れた。
本当にありがたい。
いい機会だ。
決意を新たにしようと思う。
今は無力。多分、一生無力。
それで構わない。
ただ諦めない。
進む。
その時の最善を尽くすのみ。
今は歯を食いしばって学べるだけ学ぶ。
心を開いてあるがままを見て。
出会いを大切にする。
その為の旅。
決めたのは自分。
そして書く。
万が一にでも、どこかの誰かにいい物を届けられるかもしれないから。
今出来るのはその程度。
それでいい。そこに全力を注ぐ。
日本に帰ったら、着物、伝統文化、異文化交流、教育、政治。
これを人生の中で出来る時に出来る事を出来るだけ精一杯やっていこう。
それはもう決めた事。
そして人生を楽しもう。
笑って死のう。
フラついている事を誰かに言うのを忘れてたけど、そこは省いて急に復活宣言。笑
張り切っていこう!
ギリシャ人の女性と話していたカフェのオーナーが、話しかけて来た。
「日本から来たの?なんで和服着てるの?なんで旅してるの?」
答えると、写真を一緒に撮るように頼まれて、デザートをおごってくれた。
女性はお茶をおごってくれたにもかかわらず、「どうかお願いだから受け取って。バス代に。」と言ってお金を渡そうとする。断っても聞かない。「ありがとう。お願いだから日本に来てこの借りを返す機会を与えてね。」
早く与えられる人間になりたい。
その感情は置いておいて、
今は素直に心から感謝を伝える。
こうやって人と人との出会いが、助け合って社会が流れて行く事を強く感じた。
よく、偶然なんてないと人は言う。
全ては必然だと。
けれど自分はこう感じる。
必然なんてない。
全ての驚くべき偶然の瞬間の積み重ねが、想像も及ばない未来を引き寄せる。
無限の可能性の中から現れた一つの現実。
狙えやしない。
全てがおかげさま。
どの出会いも本当にかけがえのない貴重な宝だ。
一期一会とは本当によく言った物。
四文字にこれら全てが詰まってる。
さすがは昔の偉い人。
ありがとう。
読んで下さる事も本当に大きな支えです。
皆さん、今後ともよろしくお願いします。