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「あのキノコ雲は、
一瞬で粉塵になった人々や建物なのよ。」
被爆者で詩人の橋爪文さんとお話をしていて印象に残った言葉。
そんな風に考えた事か無かった。
当時ヒロシマに原爆を投下したエノラ・ゲイの機長は、
キノコ雲を見て任務成功にホッとしたと言う。
彼もきっとその瞬間、キノコ雲が犠牲者そのものでもあるとは考えもしなかっただろう。

文さんは壮絶な被爆体験をした。
強烈な閃光を見た次の瞬間、街は消えて全身血だらけになっていたという。
「被爆体験をされた方が当時の絵を描いたりしていますが、あれも良心からの嘘である事があります。実際は人の形をしていなかったり、多くの人は服なんかは無くなってしまっていました。爆心地には描くものも、後世に残して展示するものもほとんど残らないくらい、すべて消滅してしまいました」
街は内蔵や目玉が飛び出してしまった人や、はがれた皮膚を引きずって歩いている人で溢れていたという。
そんな経験を経て、被爆によるものと思われる病に次々に襲われながら生きてきた。

そして、60歳になって英語を一から勉強して、世界各地を訪問し、反核を訴えてこられた。
一人旅をする事もあった。
それは決して簡単な事ではない。
存在そのものがメッセージ。

「自分はもう歳だから」
「自分には出来ない」
誰も彼女の前でそんな事は言えないはずだ。

そして彼女は言う。
「日本が今、世界中に平和を発信しないでどこの国がするんですか。文化、歴史、国際関係、どれを見ても日本が率先して平和を目指していくべきです」

「原爆でズタボロになった人たちが、寒さで何も言わずに寄り添って体温を感じ合う瞬間。言葉が無くても励まし合っているのが分かる。誰も寒いとか、痛いとか口にはしない。信じられない事だけれどそこまで行くと肌で感じる温もりに笑顔がでる。私はそれを見た。そこに憎しみは無かった。それが人間の本質なのでは無いでしょうか」

「もう戦争をしてほしくない」

彼女が言うその言葉にどれほどの重みがあるだろうか。
戦争はしたくない。

我々が戦争をしないと決めるなら、何が必要なのだろうか。
戦争をしないと決めながら、自分の身を守る事の難しさは、軍事力を増強して自衛する事とは比較にならない。
ガンジーは言っていた
「非暴力、不服従は無抵抗主義ではない」
「私には人に命を捧げる覚悟がある。しかし、人の命を奪う覚悟をさせる大義はどこにもない」
合気道の達人、塩田剛三は弟子に、合気道で一番強い技を問われてこう言っていたという。
「それは自分を殺しに来た相手と友達になることさ」

戦わずに身を守るには、戦う備えをするよりも、何倍もの知恵と勇気が必要になる。
しかし、安易に戦いを選んでも結局何の解決にもならず、核で戦争の規模を大きくした人間は滅びの道を歩む他ない。
我々は、生き残りたければ、どちらにしても戦わずに身を守る覚悟をしなければならない。
戦える者よりも、何倍もの知恵と勇気を備える努力をする覚悟をしなければならない。

「自分の世代には関係ない」
それも一つの価値観。
しかし、本当にそれで死に際に後悔しないのだろうか。
人間は深いところではそんなものではない。
本当は世界中の誰もがそうであるはずだ。

もう時間がない。
冷静な意見は必要だけれど、批判は最も重要な事ではない。
戦争をしたくないなら。
一番大切なのは、自分自身がどんな努力をするか。
批判は、日本の中でより良いものを選ぶ力になるかもしれないが、それで日本の総合力は変わらない。
いくら引き摺り下ろして入れ替えても、どこにも無い力は出せない。
自分自身が努力すれば、僅かながら日本の総合力が上がる。
国民全員が努力して日本の総合力を上げれば、批判が必要な事態も劇的に減る事になる。

仮に日本国民全員が、努力して、外国語の一つをマスターして
日本国民全員が、最低一人海外の友達がいる状態にしたら
その友達とささやかなプレゼントを交換したら
どんな強大な軍事力よりも有効な国防力になるのではないだろうか

これは極端な例でしか無いけれど、
批判をする前に自分自身が努力できる事は無限にある。
国内で分断される事そのものが前進の足かせになる。

意見をぶつけ合う事は必要だけれど、
敵として争うのではなく、
意見の違う仲間として話し合う事が必要とされている。

今、指導者が目先の一手をどう打とうとも、
その上で戦争をしないという断固たる決意を一人一人が持つ事が大切だ。

今を生きる世代の大半は、日本人だけれどヒロシマを体験した訳ではない。
しかし、日本国民として他人事ではない。
現代人が被害者意識を持つ必要は無い。
心を汲んで生きていたい。
しかし、戦争を知る方々と言葉を交わせる時間はもう限られている。

文さんの話を聞いてつくづく思う。
今の我々に何が出来るのか。
ご先祖様を疎かにしても、
次の世代を疎かにしても、
自分自身の中心で在る事は出来ない。

恐れに追い立てられるのでもなく、
怒りに駆り立てられるのでもなく、
希望を見据えて進んでいく日本が見たい。

心から、有り難うございました。