着物 サハラ砂漠 伊藤研人

子どもの頃、よく描いていた絵があった。
砂漠に浮かぶ三日月
彼方まで連なる砂丘
オアシスとヤシの木

子供心に美しい情景、憧れの地として心にあった土地。
そういった場所に来られる事は、本当に意義のある事だと思う。
本当に素晴らしい土地ならば、言う事はない。
仮に期待とは違っていても、それはいい経験。
「自分が本当は何を望んでいるのか。」そこに近づく手掛かりになる。

今まで世界中を旅して来て、想像通りだった場所は一カ所たりともない。

今回、訪れた憧れの地、サハラ砂漠。
想像と違う所はもちろんあったけれど、やはり感動した。

モロッコのメルズーガ。
着いてすぐ、地元のベルベル人のキャンプでお世話になる。
ここにも世界中から観光客が来ていて、多国籍な環境で皆で食事をし、音楽を奏でる。

色々な事を尋ねる。
「この辺に危険な生き物はいるの?」
「ああサソリがいるよ。蛇もでる。」
「サソリに刺されたら死ぬ?」
「いや、かなり痛いけど、死にはしない。でも蛇に噛まれたら4時間以内に医者にかからないと死ぬよ。そんなにいないけどね。」

翌日、一人で砂漠に入り、断食して野宿をした。
一人砂漠を歩く。
下駄でも意外と歩けるものだ。
自分しかいない。
船で海に出たときと似た感覚。
最大の自由と同時に、自分の命に対しての最大の責任。
この強制的に研ぎ澄まされる感覚は嫌いじゃない。
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大きな砂丘の斜面をその場所と決める。
完全な静寂。
生き物はほとんどいない。
風もない。
彼方まで見渡せる。
どこまでも砂丘が続いている。
その場所に立って初めて、想像しなかったような場所で「ここが好きだ!」と衝動的に思う事がある。

少し足で平らなスペースを作って、布を敷く。
ターバンを枕にして、裸で寝る。
朝方寒ければ、風呂敷と浴衣をかける。

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ゆっくりと座る。
静寂はその静寂が深いほど、賑やかに色々な音が聞こえてくる。

夜には満天の星空。
意図もなく眠り、意図もなく目が覚める。
夜明け前には細い残月が太陽に追われて昇る。

この風景は一体どれほど前からこの地球上に存在していたのだろうか。
自分の小ささに改めて感謝が湧いてくる。

枕元には不思議な足跡の数々。
生き物はいるものだ。
よそ者を見に来たのだろう。
ここら辺でうろついて去っていったようだ。
やはり外の世界にはどこにも孤独はない。
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少しただ座っている。
こういう時にいいアイディアが浮かんでくる。
外から情報が入らなければ、脳内にすでにあるものが活発に繋がりだす。

少しして、歩き出す。
心のままに歩く。
砂漠の砂の一粒一粒が美しい。
それで形成される砂丘。
その稜線が引く明暗は心を打つほど美しい。
風に作られた波模様は、この世の様々なものに共通の形。

屋根も食事もない、
けれど何よりも贅沢で満たされる時間。
感謝が尽きない。

この日の2日前と、翌日は砂嵐が起きた。
自分はこの日の静かな夜がとても好きだった。
ヒマラヤの時と同様、幸運にも感謝。

ありがとうございました。

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